ブース・訴求設計約9分

技術の価値を、来場者の言葉へ翻訳する

製品の機能や技術を並べるだけでは、展示会の来場者に価値が伝わらないことがあります。技術から業務の変化、顧客課題、会話の入口へ進む翻訳の順番を解説します。

技術の価値を、来場者の言葉へ翻訳するをテーマにした設計図風の模式図

私は、技術や機能から直接コピーをつくるのではなく、その技術で誰のどの作業や判断が変わるのかを間に置いて考えています。そこから相手の困りごととの接点を探すと、技術を薄めずに、来場者が自分との関係を考えられる言葉へ近づけられます。

技術から会話までの翻訳ブリッジを整理した設計図風の模式図
技術から会話までの翻訳ブリッジ考え方の模式図

技術の説明と、技術の価値は同じ文章ではない

技術の説明には、正確さが必要です。

何ができるのか。どのような機能を備えているのか。どの用途に使えるのか。専門的な製品ほど、伝えるべき条件や違いも多くなります。

ただ、その説明が正確であることと、初めて見る来場者が自分に関係する価値を理解できることは別です。

壁面に情報を並べても来場者へ届かなかった経験は、展示会ブースの壁を「説明書」にしないためにに書きました。

来場者は、まず製品の仕様を学びたいとは限りません。自分の仕事や課題に関係があるかを知り、その先を聞くかどうかを判断します。

技術の価値を伝えるには、情報を簡単にするだけでは足りません。

相手の仕事との接点が見えるように、説明の順番を組み替える必要があります。

「何ができるか」の前に、「誰の何が変わるか」を置く

技術から言葉をつくり始めると、主語は製品になりやすくなります。

「この製品は〇〇ができる」「この技術は〇〇に優れている」。内容としては正しくても、それだけでは、来場者が自分の仕事へ置き換える役割まで担えません。

そこで、先に二つの空欄を用意します。

  • この技術や製品を届けたいのは、どの企業の、どの担当者か
  • その人の、どの作業や判断が変わり得るか

たとえば「現場担当者」と「管理する責任者」では、同じ技術を見ても関心が違う可能性があります。ここで具体的な答えを勝手につくらず、営業や顧客への確認を通じて言葉にします。

対象を広く置きすぎると、業務の変化も抽象的になります。「さまざまな企業」「幅広い課題」に役立つという言葉は、間違いではなくても、自分向けだと判断する材料が少なくなります。

今回の展示会で最初に会いたい相手を決めることは、伝えない相手を永久に捨てることではありません。短い接点の入口を、はっきりさせるための判断です。

機能と顧客課題の間に、業務の変化を置く

技術の機能から顧客課題へ直接つなごうとすると、言葉が大きくなることがあります。

機能の先に「生産性向上」「品質向上」「コスト削減」といった広い効果を置けば、文章はつくれます。しかし、来場者が自分のどの仕事と関係するのかまでは、まだ距離があります。

機能と顧客課題の間に、誰のどの仕事が変わるかを置きます。

この順番には、製品名だけでは埋められない欄があります。

その空欄を埋めるには、現場の仕事や困りごとを知る必要があります。顧客課題を資料の外で確かめた経験は、「展示会を変えるために、製造現場で働いた話」に書いています。

自社が伝えたいことと、現場の関心が同じとは限りません。翻訳は、製品の言葉を巧みに言い換える作業というより、両者の間にある情報を確かめる作業です。

原文と翻訳文を、並べて確認する

訴求メッセージを決めるときは、技術側の原文を消さず、来場者向けの言葉と並べます。

確認する欄書く内容
技術・機能の原文社内資料で使っている正確な説明
想定する相手今回、最初に会いたい企業・担当者
変わる作業・判断技術が関係する仕事上の変化
解消したい困りごと相手側で確認した課題、または検証する仮説
壁面の入口通路から最初に伝える言葉
接客・デモで補うこと会話のあとに詳しく示す情報

並べる理由は二つあります。

一つは、来場者向けにする過程で、技術的な正確さが失われていないかを確認するため。もう一つは、社内で伝えたい内容と、来場者への入口を混ぜないためです。

翻訳文だけを見ると、言葉が柔らかくなりすぎることがあります。原文だけを見ると、相手の仕事との接点が消えることがあります。両方を残し、製品担当、営業、展示会担当で確認できる状態にします。

制作会社へは、完成したコピーだけでなく、この関係も共有した方が、情報の優先順位を伝えやすくなります。見た目の印象だけでなく、どの言葉を最初に見せ、どの情報を会話へ回すのかを要件として渡せます。

翻訳は、うまい言い換えを探すことではない

技術の価値を来場者の言葉へ翻訳する、と言うと、コピーライティングの問題に見えるかもしれません。

けれど、言葉を考える前に必要なのは、相手の仕事を知ることです。

誰に届けるのか。どの作業や判断と関係するのか。その人は何に困っているのか。自社の技術は、そこへどう作用するのか。

この間がつながっていなければ、短いコピーだけを変えても、展示会全体の会話は変わりません。

反対に、関係が整理できれば、壁面のコピー、スタッフが聞くこと、デモで見せる部分、配布資料へ載せる詳細を分けられます。

必ず売れる言い換えがあるわけではありません。顧客課題の仮説が外れることもあります。だから展示会当日の会話で確かめ、次の企画へ戻す余地も残しておきます。

技術を簡単に見せるのではなく、相手の仕事との接点を見えるようにする。

それが、展示会で行う「翻訳」だと考えています。

関連して、壁面で見せる情報の優先順位は「展示会ブースの壁を『説明書』にしないために」、顧客課題の確かめ方は「展示会を変えるために、製造現場で働いた話」で整理しています。