製品資料には、製品のことが書かれています。
機能、用途、特長。何ができるのかを知るには必要な情報です。けれど、その製品を使うかもしれない人が、日々どのようなことに困っているのかは、そのまま載っているわけではありません。
私は顧客課題を理解するため、実際に製造現場で短期間働き、現場へのインタビューも行いました。
資料の外へ出たのは、自社が伝えたいことと、現場の関心との間にずれがあったからです。
製品を知ることと、使う人を知ること
製品資料を読めば、その製品が持つ機能や想定用途を整理できます。営業資料を見れば、社内で重視している強みも分かります。
一方で、現場の仕事は製品を中心に動いているわけではありません。
そこで働く人には、担当する作業や判断があります。すでに使っている道具や方法があり、日々の流れがあります。新しい技術や製品は、その中の一部として検討されます。
だから、自社の製品を詳しく知るだけでは、相手の関心を理解したことにはなりません。
どれほど優れた機能でも、現場のどの場面と関係するのかが分からなければ、来場者へ届ける言葉を決めにくい。展示会で何を大きく見せるべきかも、自社の言いたいことだけで選ぶことになります。

短期間でも、現場で確かめる意味があった
製造現場で働き、インタビューを行うことで、資料だけでは分からない困りごとを確認しました。
短期間の経験なので、これだけで現場を分かったとは言えません。それでも、資料だけを見ていたときとは、質問の入口が変わりました。
資料では整った項目になっている情報も、現場では作業や判断の連続の中にあります。製品の機能を説明するときと、現場で困っていることを聞くときでは、話の入口が変わります。
自社が伝えたいことを出発点にするのではなく、現場が困っていることから考える必要がある。
これは、現場での経験とインタビューを通じて、私が感じたことです。
展示会の言葉を、製品起点から課題起点へ戻す
展示会の準備では、製品名や機能が先に決まっていることが多くあります。
そのため、壁面のコピーやパネルを考えるときも、「この製品で何ができるか」から始めがちです。機能を漏れなく載せようとすると、説明は詳しくなりますが、来場者が自分との関係を見つけにくくなります。
順番を一度、反対にしてみます。
最初に置くのは、来てほしい企業や担当者です。次に、その人が担当する仕事や、そこで起きている困りごとを考える。そのうえで、自社の技術や製品がどこに関係するのかを結びます。
ここで言う顧客課題は、資料に載せるためにつくった便利な言葉ではありません。
相手の仕事のどこで、何がうまくいっていないのか。本人は何を変えたいのか。どのような判断をしているのか。できる範囲で確かめ、曖昧な部分を仮説として分けておく必要があります。
課題が事実なのか、自社側の想像なのかを混ぜないことも大切です。展示会までにすべてを断定できなければ、当日の会話で確かめる問いに変えられます。
インタビューで、答えを先回りしない
顧客課題を聞くとき、自社の製品で解決できる話へ急いで寄せると、見える範囲が狭くなります。
製品を案内したい気持ちが先に立つと、相手の話を、自社に都合のよい課題へ変換してしまうことがあります。
まずは、相手がどのような仕事をしているのかを知る。困っていることがあるなら、どの場面で起きているのかを聞く。今はどう対処しているのかも確かめる。
そこから先に、自社の技術や製品との接点があります。
インタビューは、製品説明の前置きではありません。自社がまだ知らないことを知るための時間です。
もちろん、展示会前に現場で働くことが誰にでも必要なわけではありません。顧客へのインタビュー、営業が持つ会話記録、既存顧客から得た情報など、確かめる方法は企業ごとに違います。
重要なのは、手元の製品資料だけで顧客課題を決め切らないことです。
今も、資料だけで決めないために残している問い
訴求を考えるときは、自社の言葉だけで話が閉じていないかを確認します。
- 来てほしい人は、どの仕事を担当しているか
- その仕事のどこに困りごとがあると考えているか
- それは確認できた事実か、これから確かめる仮説か
- 現在は、どのような方法で対処しているか
- 自社の技術や製品によって、どの作業や判断が変わり得るか
- 会場では、何を説明する前に聞くべきか
この問いに答えようとすると、製品の特長だけでは埋まらない欄が出てきます。その空欄が、調べることや、展示会当日に聞くことになります。
技術の詳しさを、来場者に伝わる言葉へどう置き換えるかは、「技術の価値を、来場者の言葉へ翻訳する」で続けて整理します。
資料は、出発点として役に立ちます。ただし、資料の中だけで考え続けると、見えるのは自社がすでに知っている範囲です。
展示会で会いたい相手のことを考えるなら、製品を読む時間と同じくらい、相手の仕事を確かめる時間が必要だと思っています。
著者については、宍戸直也のプロフィールをご覧ください。
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