展示会を担当し始めた頃、来場者へのヒアリングより、こちらからのサービス説明が中心でした。
説明ができたことと、次につながる会話ができたことは、同じではありません。
説明が長いほど、相手を知る時間は短くなる
展示会スタッフが製品やサービスを説明するのは、自然なことです。
来場者から質問されることもあります。限られた時間で特長を伝えようとすれば、あらかじめ用意した説明は役に立ちます。説明そのものをなくす必要はありません。
ただし、最初から最後まで説明を続けると、会話は一方向になります。
どのような業務を担当しているのか。何に困っているのか。情報収集の段階なのか、すでに具体的な検討が進んでいるのか。相手によって、必要な情報も、次に取るべき行動も違います。
聞く前に説明を始めると、相手に関係の薄い内容まで長く話すことになります。そして説明を終えた頃には、相手を知る時間が残っていない。私自身、接客と企画の前提を見直すまで、この順番になっていました。

「理解してもらう」だけを接客の目的にしない
接客の目的を「自社の製品やサービスを理解してもらう」と置くと、スタッフは説明の量を増やそうとします。
けれど、展示会で会う人すべてに、同じ深さの説明が必要とは限りません。
まず知りたいのは、その人と自社の技術や製品に接点があるかどうかです。接点があるなら、相手の状況に合わせて必要な情報を案内できます。さらに話す理由が見つかれば、会期中の商談や展示会後の連絡につなげられます。
接客の目的は、説明を完了することではなく、互いに次の会話へ進む理由があるかを確かめること。
そう考えると、スタッフが覚えるべきことも変わります。長い説明文だけでなく、何を聞くか、どこで説明へ切り替えるか、会話の終わりに何を残すかが必要になります。
最初に聞くことは、商品説明より先に設計する
当日になってから「相手の課題を聞いてください」と伝えても、何をどこまで聞くのかはスタッフごとに変わります。
質問は、展示会の目的から逆算して準備します。
たとえば、情報のカテゴリーとして考えられるのは、次のようなものです。
- 担当している業務や立場
- 現在抱えている困りごと
- すでに行っている対策や検討状況
- 関心を持った理由
- 会話のあとに考えられる次の行動
これは、そのまま読み上げる質問集ではありません。どの情報が必要かを決めるための枠です。
商材や出展目的によって、確認したい内容は変わります。担当部門を知ることが重要な場合もあれば、検討時期や現在の運用を知ることが重要な場合もあります。何でも聞こうとすると、接客ではなくアンケートになってしまいます。
まずは、営業が次に動くために何が分かっていればよいか。そのために会場で確認できることは何か。この順番で絞ります。
質問を増やしすぎると、会話ではなくなる
ヒアリング項目を設計するとき、抜け漏れをなくそうとして項目を増やしたくなります。
しかし、展示会の接客時間には限りがあります。質問が連続すれば、来場者には「聞かれている」感覚だけが残ります。スタッフも、項目を埋めることに集中して、相手の話に合わせにくくなります。
すべての情報を会場で集め切る必要はありません。
会話を続ける価値がありそうかを判断するための情報と、次回の打ち合わせで詳しく確認する情報を分けます。そのうえで、会場で必要な項目だけを残す方が使いやすくなります。
その答えで次の対応が変わらないなら、会場で必須の質問から外してよいと思います。
必要な説明は、聞いたあとに選ぶ
先に相手の状況が少し分かると、説明を選べます。
製品のすべてを順番に紹介するのではなく、相手の関心とつながる部分から案内する。デモを見せた方が早いのか、別の担当者につないだ方がよいのか、資料を渡して後日話す方がよいのかも判断しやすくなります。
ブースの壁面も同じです。すべての説明を壁に置くのではなく、会話を始める入口をつくる。「展示会ブースの壁を『説明書』にしないために」では、その役割分担を詳しく書きました。
聞くことと説明することは、どちらか一方を選ぶ話ではありません。
状況を聞き、その人に必要な説明へ進む。この順番にすることで、短い接客の中でも、互いに関係のある話へ時間を使えます。
会話の終わりに、何が残ればよいか
展示会の接客は、話し終えた瞬間ではなく、その後の行動まで考えて設計します。
名刺を交換して終えるのか。会期中に別の担当者と話すのか。展示会後に連絡するのか。具体的な打ち合わせを設定するのか。
会話の出口が決まっていないと、スタッフはその場の感覚で対応します。来場者の関心が高くても、次の約束が曖昧なまま終わることがあります。反対に、まだ情報収集の段階なのに、必要以上に強く商談を求めることも起こり得ます。
そこで私は、ヒアリング項目だけでなく、判定基準、商談設定ルール、営業への引き渡しまで設計するようになりました。接客だけを切り離さず、会場で得た情報が次の担当者へ届くところまで考えるためです。
ホットリードの基準については、「ホットリードは、展示会が始まる前に定義する」で掘り下げます。
スタッフへ共有したいのは、台本より会話の目的
完成したトークスクリプトを全員が同じように読むだけでは、相手に合わせた会話にはなりません。
共有したいのは、言い回しを一字一句そろえることよりも、次の判断です。
- 最初に確認したいこと
- 説明やデモへ切り替える条件
- 会話のあとに残す情報
この骨組みがあれば、スタッフは自分の言葉で話しながらも、必要な情報と次の行動を見失いにくくなります。
製品資料を読み込むだけでなく、相手に何を確かめ、どの説明を選び、その情報を誰へ渡すかまで準備します。
